ますます快調、『月の平均台』、客演インタビュー、四人目のゲストは土田祐太さんです。なぜか劇団員からは「ツチヤ」と呼ばれるつっちー、そして返事は「はい」。なぜゆえに?そんなつっちーを解剖しますよ。出身は新潟県。


服部:新潟にはいつまでいらしたんですか?
土田:ちょうどあの高校卒業までですね。大学から、こっちで一人暮らしを始めました。
服部:へえ。もう、すぐに桜美林ですか?
土田:はい、桜美林です、
服部:これ、なんで桜美林だったんですか。
土田:あの、簡潔に話しますと、もともと映画監督になりたくて。最初、日大芸術学部の映画監督コースってのがあったんですけど、そこ受けて、ま、落ちてしまいまして。映画を撮りたかったんですが、演劇から入ってみるのも面白いかなって思って、次の希望だった桜美林の演劇に入りました。
服部:じゃ、最初は監督のほうに、
土田:そうですね、もとはもう、ほんっとちっちゃいころから、映画が大好きだったんで。絶対自分は、こういう映画が作りたいっていう。作る側のことがやりたくて、きっかけは全部そっからですね。
服部:映画館で見てたの?
土田:そうですね。あの、一番最初に映画を好きになったのは、ジャッキー・チェンが、ふふ、全ての始まりで、
服部:へえ〜。
土田:彼の作る映画が大好きで。だからいつか、あ、こんなふうに自分で出演もして、作品も作って、アクションもできてみたいな。で、すごいどっぷりはまったとこから、だんだんその、ジャッキー・チェンだけじゃなくて、いろんな洋画とかも見るようになって、アクションだけじゃなくてヒューマンドラマとか、いろんなものにこう、惹かれるようになりました。
服部:へー。すげー、すげーよ。
土田:はは、すごくないっす、普通に映画が好きってだけですけど、はい。


ぼくが感動したのは、なんというか、つっちーの中にあるマグマの熱さ、みたいなもの。こうしてテキストに起こしながらも、改めて土田くんの情熱に絡め取られそうです。まだ23歳ってんだから、素敵だ。


服部:ここ1年くらい、どんな芝居やってましたか、っていう質問をみんなにしてるんですけど、
土田:はい。4月からフリーってことで、事務所に入って、活動してたんですが。出た芝居は、まず8月に、T.P.T(*1)というカンパニーのオーディションがありまして、それに幸いにも受かりまして。ニール・ラビュートというアメリカの作家の人の、「the distance from here」(ここからの距離)っていう作品をTHE・ガジラに出てらっしゃる、千葉哲也さんの演出で出演したのが、俳優としてのデビュー作、ということになります。(*2)
服部:それは、どこで上演だったんですか。
土田:両国にある、ベニサンピットという、はい。もともと染色工場だった古い、すごい劇場で、劇場の作り自体が面白いので、いい経験になりました。そのあとは、つい先月だったんですが、また同じT.P.Tの『ミステリア・ブッフ』という、19世紀のロシアの詩人で、あの、ウラジミール・マヤコフスキーという人がいたんですけど、
服部:へー。
土田:その人が書いた一大叙事詩、革命劇みたいのを、あの、27人のキャストでやりました。
服部:この2作品は、かなりあれですか、自分の中ではかなり手ごたえがある感じで?
土田:そうですね、正直、在学中に出演していた頃の、芝居の取り組み方から、自分の演技方法とか、いろいろ根底から覆される感じで、しかも誰一人知り合いがいないところに飛び込んだっていう経験が初めてだったものですから、どうしても、いろんな意味で研ぎ澄まして日々稽古場に向かわなければいけなかったので。ほんと辛かったんですけど、明らかに大学在学中とは違う変化が自分の中に起きたとは自負してます。
服部:じゃ、その2作品を経て、また・・・、
土田:そうですね、だからほんと、なんかちょっと帰ってきた感というか、その2作品で1年を経て、また横田さんの作品に出れるっていうのも、僕自身にとっても課題だし。やっぱり1年前と変わってなければ、横田さんとぼくとお互いにとって刺激的ではないので、ちょっと背伸びをして今、稽古がんばってます、


ツチヤくんは、作家の名前とかその背景とか、詳細に記憶していてそれがすらすらとことばに出てくる。彼の感じている世界の輪郭ってどんななんだろうと、好奇心をそそられたところで、タテヨコ企画についてお尋ねしてみますと・・・。


土田:ぼくが大学2年生のときに、GALA Obirinという演劇祭の招聘公演で、『そのときどきによって』っていう作品が上演されまして。(*4)ぼくあの、全くタテヨコ企画を知らなくて、職員としての横田さんしか知らなかったんですけど、正直チラシの絵とか見たときも、ちょっと地味で、なんか暗いドラマなのかな、と思って。でも、その『そのときどきによって』っていう作品が、ものすごく笑えたし、でも単純に笑えるだけじゃなくて、なにかその、日常の些細な人のやりとりのなかで、はっとさせられる瞬間とか、ふと、なんで人が人を求めるのかとか。
服部:うん、
土田:そういうなんか奥行きと云うか、横田さんの描くものにいい意味ではまってしまいまして。あ、ものすごく面白いものを作るひとなんだ、横田さんは、ということで、それ以来、ほぼタテヨコ企画の作品は見せていただいてます。
服部:タテヨコってこういう芝居だよな、とか、団体とかね。どういうイメージを持ってるか、っていうのもお聞かせくださいますか、
土田:そうだな。えー、それぞれがそこにいるだけでもう確実にコミュニケーションが取れる団体。ようはその、「こうしていこうね」とかじゃなくて、ぼくなんかが追いつけないところで、みなさんのなかで、なにか深い理解というか、あがってくる台本に対して、ただ素直に読むことで、なんか完成されてるんだなって。漠然とした表現になっちゃったんだけど。なんだろうな・・・。うーん、
服部:あんまり言葉で説明、お互いに説明が要らない、みたいな?
土田:そうですね。なんだろ、もう意識しなくても足並みが揃っちゃってるっていうか、
服部:ほーう。それ、でも微妙ですね。なんか、マンネリというか、
土田:いや、そこに、なんか、タテヨコ企画がタテヨコ企画である存在意義みたいなのが、ま、マンネリって云う言葉が正しいか分からないですけど、それはどの作品を見てても、確実に、「うん、これだね!」っていう絶対的なものがあるんですね。
服部:あー、なるほど、なるほど。
土田:それはいい意味で言ったらぶれないってことだし、欲しいものをいつも確実にくれるんだっていうのはすごく、感じますね、はい、


土田くんと話していると、自分の不明がはずかしくなります、はい。さてさて、話はいよいよ『月の平均台』へと進みます。


土田:この舞台、森の奥で奥さんを探す夫、そしてぼくはそれを慕ってついてくる後輩なんですけど。なんか、その行為だとかその森の世界観だとか、それ自体が、空想とかファンタジーっていう風になっちゃうと、なんでもありというか、簡単になってしまうと思うんですが、
服部:ほうほうほうほう、
土田:さっきも言いましたけど、タテヨコ企画であるという、ある種の日常というか、何気ないやり取りがその森で行われることによって、ファンタジーや空想に逃げずに、その世界自体に、たとえばいまこうやって服部さんとお話しているようなリアリティを持たせる、その説得力みたいなのがぼくは、鍵になってくると思うんですね、
服部:うん。
土田:よくあの、「そんなことあるかい!」みたいな、日常から逸脱したことに対して、すぐなんかそうちゃちゃを入れたがる人とかいますけど、なんかもうそういうレベルを飛び越えて、どうお客さんを、スッと魅入らせることができるかっていう。引き入れたら、あとはどんどんタテヨコ企画の会話のつむぎ方というか、お互いのやりとりをすれば、より今までのタテヨコ企画から、昇華されたなにか、新次元。しかもそれが挑戦に終わらないんじゃないか、みたいな。そこにたどり着けるようにやっていきたいと、ま、一俳優として思ってます。
服部:あの、今回、妻がいなくなって、まあ、大切な人を探しにいく、っていう設定なんですけど、なにかその大切なものを、ものでも人でもいいんですけど、なんか、なくしちゃったようなエピソードとかがあれば、
土田:もうこれは単純に、やっぱ、昔付き合ってた彼女と別れた経験というのは、まさにそれですよね。大切なものを失ってしまったっていう経験が、ひとつそれは、はい、ありますけども。
服部:今回の設定って、いなくなって半年くらい経ってるわけじゃないですか。それ、どうなのっていうか。取り戻せるかどうか分からない、しかも、人との別れということであれば、自分だけの気持ちじゃない、じゃないですか。何でそういうことが起こったのかとか。けっこう今回、あらすじを聞いて、すごく惹かれる、見に行きたいっていう予約がけっこうあるんですよ、
土田:ああ、それは嬉しいですね、はい。
服部:だから、人を、大切なものを失った状態っていうのに対して、僕自身も考えたいな、とか。ま、答えとかはないとは思うんですけど、でもやっぱりなんかちょっと答えっぽいものを求めちゃう気持ちっていうのがあるんだけども。
土田:はい、
服部:なんかその、彼女と別れたときの、追いかけ具合みたいのはどうでした?自分の中で。
土田:今はもう普通に思い出せる、まあ「思い出」なんですけど。その当時のことを振り返ると、さっきおっしゃったように、答えのない答えを探してて。今日は何とか、「あの別れはあいつのこういうところが悪かったんだ」っていって、腑にすごい落とすんだけど、すぐにその、出した答えに対して「それは違う」っていうふうに反対してくる自分が現れて。「あ、やっぱ俺がいけなかったんだ、あの時俺があんなことをしたから結果こういう別れにつながったんだ」って、いう。日々答えは変わるし、姿かたちを変えて、すごく悩まされて。
服部:うんうんうん、
土田:でもそれは言ったように、結局、僕自身の一方的な気持ちでしかないし。自分に自分が踊らされてるだけ、っていうのは、すごく感じたことであって。だから結局、なんだろうな。これ、かっこつけるわけじゃないですけど、すごい好きな言葉で、ある作家さんの本にあった言葉なんですけど、「事実はひとつだけだけど、真実は人の数だけある」、っていう言葉があるんですね。現象だけ追うと、ぼくと彼女は別れたっていうこの現象ひとつなんだけど、なぜ別れたかっていう答えに関しては、ぼくのなかの真実、彼女の中の真実、人の数だけそれに対して真実があるから、結局そこは相容れない。だから、そういう別れそのものを克服していくのは、やっぱり自分自身しかいないし。悲しいことをいえば、きっとそういう、お互い求め合ったりとか、それこそ今回の芝居でいう、別れた妻を捜すという行為は、ほんっと突き詰めてってしまうと、それは誰のため、なんのためじゃなくて、結局自分のため、その自分だけの答えを探すための旅でしかないんだっていうことは、すごく思いますね。うん。でもそれでもこう、やっぱ、求めることにぼくは意味があると思っているんで、全然、後ろ向きではないんですけどね。はい、すんません、長くなって。
服部:いやいやいや、これ、充実したインタビューだな、おい。やべーな、これ。
土田:やさしいな。はは。
服部:いや、ほんとね、ちょっともう、これぐらいにしておくか、


なぜだか、過去の失恋経験についてガンガン語らせてしまいました。あらためて、自分のデリカシーのなさに驚きます。えー、「現在は幸せにやってます」との追伸をいただきましたので合わせてご報告させていただきます。情熱俳優土田祐太さん@タテヨコ企画、いよいよ5月28日に駅前劇場に上陸です。彼と一緒に森をさまよってみませんか。

インタビュー:2008年4月30日


土田さんのグッボイス:
http://torihitori.seesaa.net/article/97083789.html


*1:T.P.T(シアタープロジェクト・東京):http://www.tpt.co.jp/
*2:『The Distance from Here -ここからの距離-』演出 千葉哲也、07年8月、ベニサン・ピット
*3:『ミステリア・ブッフ』演出 木内宏昌、08年3月、ベニサン・ピット
*4: GALA Obirin:桜美林大学総合文化学群の学生が企画・運営する芸術祭。

 
 
 

 

 

 

 インタビューリスト
 ・ 成田亜佑美
 ・ 藤田貴大
 ・ 召田実子
 ・ 土田祐太
 ・ 主浜はるみ
 ・ 西山竜一(無機王)
 ・ 代田正彦(北区つかこうへい劇団)

 

  


  
 

  
 

  
 

  
 


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